研究開発の方針
本プロジェクトは5つの社会科学課題が循環して社会実装します。そして、社会実装後に出現した新しい課題に挑戦する機能的なサイクルを形成して、レジリエントな食のサプライチェーンを構築し、フードロス削減に取り組みます。

ターゲット
1. 食品の貯蔵期間を延ばす保管・流通基盤技術の確立

生鮮食品のフードロスを低減するためには、収穫後処理、保管・流通工程の改善が必要不可欠ですが、最も重要な技術は食品の機能・鮮度などのバリューを迅速かつ定量的に把握することと考えます。そこで、課題1は、温度・湿度・その他の条件を調整する適切な対策をとって食品の消費期限を延ばす最新鋭のフードメタボロミクスを開発します。

これらの生鮮食品が海上輸送工程において温度による劣化に留意するために、リーファーコンテナ(温度調整管理コンテナ)の利用が一般的ですが、適切な品質管理が行われていないのが現状です。課題2では、コンテナ内の温度管理と並行して食品機能の低下、劣化を精密にモニタリングする技術を開発します。具体的には、コンテナ内に小型無線デバイスを設置し、スマートデータロガーシステムを構築、流通過程における環境情報データや品質劣化データを継続的にモニタリングする技術を開発します。
課題2メンバー:廣瀬哲也 (阪大・工・電気電子情報工学専攻・教授)
2. 食品トレーサビリティの基盤技術システムの開発

食品偽装は食品原料偽装・生産加工偽装・消費期限偽装・ハラル偽装など多くの種類があり、偽装することにより不当な利益を得る流通・小売業者が増え、また消費者に健康被害問題を招きます。食品の情報を出荷段階でデータベース化されていますが、流通過程で食品の入れ替え偽装や書き換え偽装が生じるとそれを修正・解決することは困難です。課題2は、スマートデータロガーシステムを利用して超小型無線センサタグに食品の情報を格納し食品と不可分な状態で添付・流通させることで食品の真正性やトレーサビリティーを担保する開発をします。
課題2メンバー:三浦典之(阪大・情報・情報システム工学専攻・教授)
3. 低利用植物・微生物資源の有効活用

近代的な育種や栽培法が確立されていないオーファンクロップ(孤児作物)などの未利用植物をゲノム編集技術などの新育種技術により「作物化」する開発をします。また、食品加工工程でどうしても廃棄されてしまう部分を微生物の培地や菌床として再資源化し、昆虫・微生物・キノコ・植物・農作物を育成し食品として循環させて再利用を可能とする開発をします。東南アジアから輸入されるエビなどの水産物や生鮮食品は凍結・輸送・解凍が不可欠ですが、特性を維持したまま保管・流通が可能なリバーシブル凍結乾燥復元技術を開発します。
4. 食文化とテクノロジーの融合によるフードソリューション人材の育成

社会経済システムの構築
課題3のオーファンクロップや廃棄食品から再生された新しい食材を普及させるために、環境問題を鑑みた社会的合意の形成が極めて重要です。他の課題も含め、問題解決のためにいくら優れた科学技術を構築しても社会に受け入れなければ価値を生かせません。課題4は当該技術の合理的な受容を促すための社会啓発システムを開発し、俯瞰的に問題解決を図ると共に、新たな問題の出現及び全体のバランス維持を想定した分析やフィードバックプロセスを計画します。

「消費ロス」は科学的根拠を伴わない個人の嗜好や気分に基づく利己的な欲求であることも多く、こうした個人の食選択は社会・経済的背景の影響を受けることが多いことが現実です。課題5は、教育の現場で消費者の現代の食文化を社会啓発することと、より持続的な社会に価値を見出すことによりエシカル消費へのインセンティブを高めるための人材育成を図ります。